どれくらい教育に(療育に)時間がかかるの?

 久しぶりにおじいちゃんネタでいきますね。いつも元気なおじいちゃん。やはりいつもなぜか焦っています。先日今年卒寿のおじいちゃんから手紙が届きました。開くと、なんと11月だと言うのに子どもへのお年玉が入っていました。お・・・お年玉?なぜ今頃?焦るタイプとは思っていたけれど、さすがに年が開ける前にお年玉をくれる人は、おじいちゃんしかいないでしょう。お礼の電話をかけると「もういつ死んでもおかしくないで。でも、死んでしまってからじゃしょうがないからのう。先にやっといた。ほら、先もらっとかなあかんわ。じゃあのう。(ガチャン)」と手短に切られてしまいました。この間も自転車に缶詰いっぱい積んでフラフラ運転してきたくらいだから、ずいぶん丈夫なはずなんだけれど・・・・。そんなに焦ってどうするんでしょうねえ。
 おじいちゃんほどは焦っていない私でも、教育の成果のあがるスピードの遅さに、時にくじけそうになってしまいます。例えば、「ぶどう」と言われてぶどうを指差し、「おにぎり」と言われておにぎりを指差しすることを教えるのに、半年かかる場合もあります。もっと言えば、半年かかってもできないこともあります。「ぶどう」、「おにぎり」、「くるま」の絵が並んでいる時に、もう一つ同じぶどうの絵を渡されたら、「おにぎり」や「くるま」でなくぶどうと一緒に合わせること(マッチング)でも、3ヶ月かかる場合もあります。
 自閉症の診断を受けておられるお子様の多くは、学ぶスピード全体が遅いお子様も多くおられます。また同時に、学んだスキルを使いたいモチベーションが異常に低かったり、さらに言えば、新しい活動は全て拒否したりといった傾向が強い場合が多いのです。ですから私の教室では、教えるだけでなくモチベーションを高めたり、教えた力が実際の場面で使えるようになることに焦点を当てています。「ぶどう」を教えるなら、指差しやマッチングができるだけではなく、「ぶどう狩り」について絵本を読んで、模擬的なぶどう狩りを教室でやって、積極的にぶどうを採ったり、指差ししたり、「ぶどう」と言って欲しいのです。「ミックスジュース」の絵本を読んで、ミックスジュースの絵を描かせて、ぶどうの色で絵を描いたり、ジュースを飲む真似をしたり、ミックスジュースの歌を真似したり、粘土でぶどうを作ったり、こういったことが楽しくなって、やりたくなって欲しいのです。
 こういったモチベーションを上げる過程というのは、実は教えるよりもさらに時間がかかることが多いのです。多くの場合、子どもにとって課題を簡単にしてやりやすくしてあげたり、(繰り返しの好きな子どもが多いので)何度も何度も繰り返し(嫌がっても泣き叫んでも)やらせていったり、また、子どもが好きなiPadや他に好きなことを混ぜ合わせることで、徐々に好きになっていきます。一つのことが好きになるのに、場合によっては3ヶ月かかります。場合によっては3ヶ月みっちりやっても好きにならない場合もあります。でも、こういった活動を地道にいくつもやっていくと、徐々に新しいことが1つ増え、2つ増え、そして新しいことが好きになるまでの時間も少しずつ短くなっていくのです。長期間で見ていると、「やりたい」という動機が増えてくるのですから、子どもが「子どもらしく」なってきます。「やりたい」ことが増えた子ほど、他のことを学べる(学びたい)ことも増えてきます。
 療育を始めたばかりの状態を見ると、子どもが全然やる気がないのに、「やったー。めっちゃ楽しいよ!ほら、こんなこともできる!」とめっちゃテンションをあげて盛り上げるお笑い芸人みたいなもんです。笑ってもらえなくても、何べんも何べんも繰り返して、徐々に子どもの笑ってもらえるものを増やすんです。変わったお仕事だと思いませんか?本当に地味で気長な作業のです。
 ちなみに、好きなことを増やしていくというのは、定型発達をしている子どもでも、共通していると思います。テンション上がって楽しんで帰ってもらうために工夫をした教育をやっていると、「嫌なことをやらされている」教育と比較して、短期的には伸び幅が実際には少ないかもしれないのです。しかし、長期的に見ると断然楽しい方が、教えられたことを実際に使ったり、家で同じことをやってみたりするので、「教えたことだけ」ではなく、他のことを学んだりもしてくれるので、子ども全体の成長という面で大きく影響を与えます。
 教える側に立つ人間なら、「教育には時間がかかる」ということが頭ではわかっているはずなのですが、やはり目に見えて成果が出ないと、くじけてしまいやすいのです。逆に簡単に効果が出る短絡的な教育に走りやすいのです。子どもが「やりたい」「教えられたことを使いたい」ということを目標にすると、時間がかかりすぐには成果が見えにくいのですが、それが一番大切なことだと思います。

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