ABA: PRとNET

 しばらくぶりの再開です。いやあ、やはりブログを書くのは楽しいですね。最近療育やプライベートの方が色々と時間を取られまして、特別に締め切りがないブログはついつい後回しになってしまいますね。今回はリクエストに応えて「PRTとNETの違いは何なの?」という質問に答える内容になっています。まあめげずに少しずつでもやっていきます。
 全然関係ないですが、どなたか新幹線移動の時に車酔いせずに仕事をする良い方法分かる人います?私は元々車酔いするタイプなのですが、やっと最近本読んだり、携帯のメールぐらいは大丈夫になってきているのですが、やはりブログを書いたり、翻訳の作業をしたり、コンピューターを使う作業は気分が悪くなります。特にトンネルがダメですね。入ったり出たりする度に揺れて、「うっ」と来ます。新幹線移動であまり寝られず、仕事もできず、ビールも飲めず、結局携帯でゲームして終わるのももったいない気もしますよね。本でも読めば良いのか。
 さて、質問の違いですが、簡単に言うとABA > NET > PRTということになります。ABAの一部にNET (Natural Environmental Training)があって、その一部にPRT (Pivotal Response Training)というのがあります。NETというのは、DTT (Discrete Trial Training)に対比しての言葉ですが、デスクでのセラピーに対比して、自然環境で教えれば基本NETということになります。PRTもその一部ですが、他にも、Incidental TeachingとかMilieu Trainingとかも言うのもあります。PRTは中でも研究も多く、有名ですのでよく聞くと思います。研究でその効果が証明されているので、私のようなABAの博士にはその研究論文を読んで結果を追試出来る立場にあります。しかし、同時に登録商標でもあるので、PRTという療育方法について特別トレーニング受けたことのない私には、PRTについてはっきりとトーレーニングできるとは言えないという、イマイチビミョーな感じになります。ちなみにPECSも同様の登録商標ですが、作られているピラミッド社認定のトレーニングを私は受けたので、「使える」と公言できる立場にあります。アメリカは面白いですね。
 PRTについてですが、私もよく使う「基軸になる(Pivotal)行動」を教えようとするものです。私はその理念は大賛成です。具体的なことは登録商標ですし、彼らのトレーニングを受けて下さいとなってしまいますが、関連したところで私がやることを紹介しますね。中でも一番難しいのは、「モチベーション」であると思います。彼らは「モチベーション」を「基軸となる行動」の一つと捉えていますが、ABAの専門家としては、モチベーションは難しく言えば「こちらが外的に操作して行動に影響を与える変数」であると考えます。簡単に言えば、「食べる」という行動があると、「食べたいモチベーション」というのは行動ではなくて、食べ物を一定期間あげないとか(お腹を減らせる)大量にあげる(お腹いっぱいにする)等の操作そのものにあたり、その後の「食べる」という行動に影響を与えることができるのです(お腹が減っているときは食べる、一杯のときは食べない)。モチベーションという内的な状態は見えないのですが、見える行動によってそれが推測できたり、操作によって食べるという行動を変えることができる訳です。
 自閉症について言えば、「何か遊びがしたい」という動機がなかったり、「人と関わり合いたい」「人とやり取りしたい」という動機が無いケースがほとんどです。実際には、人が寄って行って話しかけたりしても無視するけれど、結局ブラブラしているだけで何もしない。しかし、しばらくすると、飽きてきて機嫌が悪くなる、という例は多くあります。これは「遊びは楽しい」「人と一緒に関わるのは楽しい」ということを経験していないために、遊びや関わりが強化子・好子になっていないということです。ですから、私の療育ではかなりの時間を遊びや関わりに使います。変ってくれば、「やり取り」自体が強化子・好子になって色々な新しいスキルを学ぶようになります。
 具体的にどうするのかと言うと、色々経験させてあげることで、言わば「食べずぎらい」の場合も、無理に経験させてあげます。少々嫌そうでも、どんどんやらせちゃいます。泣いていても、「良いじゃん、やろうよ」と、さっとやらせて「楽しかったねー」と言います。場合によってはこれを何度も繰り返します。 最初は泣いていても、繰り返しの好きな子は、徐々にその遊びが好きになって来ます。10回やらせて、1回だけ楽しそうにするかもしれません。楽しそうにしていれば、ますますやって行きます。前にも話した「ペアリング」ということも使えますので、繰り返しや他の強化子・好子と織り交ぜることで、徐々に楽しい物に変る事もあります。人や人とのやり取りが好きになれば(強化子・好子が変ってくれば)、人を見たり、何かしようと自発で働きかけたりするという行動が見られ、「人と一緒に何かしたいというモチベーションがあがった」、ということが推測できます。これは、「スキル(行動)を教える」ということとは根本的に違うと思います。その変化もデータ等取りにくいです。私はグラフにできるデータではなく、記述でするノートにしています。
 全然人や人とのやり取りが好きでない所から始める場合は、2、3ヶ月くらい経って少し変ってきて、半年とか1年とかかけて徐々に人好きするような感じになります。半年くらい続けていると、ディスクリートだけやってきた子とは見た感じの印象が変わりますかね。私の所で最近雇われた稲森先生は、「前まで本当につまらなさそうだったのに、何か人生楽しそうになってる」と言っていました。お母さん方は、「面倒くさくなった」と言います。自分から色々と自発行動したり、欲しい物をより強く要求したり、言わば「自我が強くなった」状態になるので、面倒くさいのです。でも、その方が人間らしいでしょう?「面倒くさい、人間らしい子」を私は目標にしています。
  ただし、これをやるには技術が必要になってきます。「嫌そうなのに、どこまで押せば良いの?」「何回繰り返せば、好きになるの?」答えはすべて、「わかりません」です。基本的には、子どもの反応を見ながら、本の小さな反応も見逃さないことです。少しでも口元が緩めば、繰り返していきます。「イヤ!」と泣いていても、泣き叫んでやらせるときもあります。しかし、泣いて嫌がった割にはすぐにケロッとしている場合など、「本当にやり取りがイヤなのではなく、ただ新しいことはやりたくなかっただけかも」何て想像しながら、またやっちゃうかもしれません。でも、あんまり押しすぎて嫌いになられても嫌なので、怖がられない程度に止めておきます。自閉症の子は本当に白々しく無視したりするので、こちらがいくら張り切って頑張っても、何の反応もなくて、こちらの気持ちが折れてしまうこともよくあります。でも、毎日頑張ってテンション上げるんです。「やったー」って私一人が(子ども抜きで)喜んでることが、よくあります。それが徐々に、「ああ、もしかしえこれって楽しい?」と言う風に変ってくると信じてやります。私にもその子が好きになりそうな物が当たるときも当たらないときもあるので、やってみて失敗して、時には成功して、という試行錯誤でやっていきます。私の教室に来てもらう方には、その試行錯誤の過程を見本を見せて体で覚えてもらっています。
 比較すると、ディスクリートが一番簡単で、一番効果もはっきりと分かって、初心者にはやりやすいのです。ただ、ディスクリートだけでは足らないと思います。絶対やる価値あると思いますので、諦めずに「人って楽しいんだよ」と紹介していきましょう。モチベーションの他にも基軸となる行動はたくさんありますが、また次の機会に。

コメント

このブログの人気の投稿

自閉スペクトラム症と運動

スモール・ステップで勝ち負け、「負けて悔しい」を教える

第3回オンラインABA講座「そんたく」