ABA:フリーオペラントの理論

 今週末は「日本行動分析学会」年次大会に出席してきました。前回も報告した通り、まだ「ぎっくり腰」になって長くないので、無理しない程度に参加しました。やはり長いこと座っているのが辛いので、長時間の参加は避けましたが、色々と収穫もありましたね。シンポジウムでは「『罰なき社会』を再考する」で発表されていた方たちの中でも、特にドッグトレーナーの山本央子先生のキャラが個人的には面白かったですね。話し出したら止まらないタイプというか、時間が過ぎてもガンガン喋りまくってましたね。話題が話題だけに熱くなるのも当然ですけどね。しかし首輪やショックを使った罰ベースのトレーニングが日本では頻繁に使われているとは、全然知りませんでした。ペットを人間以上に溺愛している人が多い世の中、ちょっと驚きですよね。罰を使わずに有効なトレーニングを行えるという情報自体がもっと広まらなければいけませんね。でもまあ子どもの教育現場でも同じと言えば同じですかね。残念ながら、なかなか体罰がなくならない。杉山尚子先生がスキナーの過去の発表等を踏まえて、理論的な分析・説明も発表なさいましたが、「罰という行動をなくすにはどうするのか」、ということを社会の行動として分析・理解し、変えて行こうとする試みも大切だと思います。
 さて理論も大切だなあと思った時点で、ここ何回かディスクリートトライアル、NET(自然環境でのトレーニング)、自発トレーニングの話をしてきましたが、今回はちょっと掘り下げて理論について話します。これまでディスクリートトライアルは、「指示に従う」行動を教えることに有効であり、色々な行動を教えるプログラムが、教える側のタイミングで調節出来る(学側の行動を待たなくても良い)という点で非常に使い易い方法だということを話しました。研究の流れとしてそれに反して出てきたのが、PRTなどを含むNET(自然環境で行うトレーニング)ということも言いました。しかし、行動分析の理論的に言えば反対は「フリーオペラント」と言います。実はPRTやNETという新しい名前を使わなくても、ディスクリートとは反対になる理論的な方法があるので、これを少し紹介します。なぜここで理論を紹介するかと言うと、私たちは科学として色々な行動の理解をして、今後も色々な療育に有効な方法を開発し、評価していくわけです。理論という大きな背骨・木で言えば幹に当たるものを無視して開発していくと、今後大きく成長してく大木にはなりづらいのです。私は理論をしっかり理解するからこそ、より安定した芯の通った療育の方法を人々に紹介出来ると思います。
 まずディスクリートは、明らかに始まりの合図があり、学ぶ側の行動が一回起これば、その試行(トライアル)は行動が強化されて(または強化以外の結果があって)終了となります。次の試行はまで(次の合図があるまで)は、少しなり長時間なりの待ち時間があります。これに比較して、フリーオペラントは、行動を何回しても良いのです。ですから、決められた時間内に何回行動が起こったかなどを見る時に使います。日常生活の例で言えば、お母さんが「これ片付けて」と指示して、子どもが片付けて、お母さんが「ありがとう。良く出来たね。」と褒めたとします。片付ける物が一つで、指示も一回な場合は、合図が一回、行動も一回、次にある合図までは時間があるということですから(何度も物を出して片付けたとしても、褒められない)、ディスクリートトライアルということになります。これに比較して、バスケットのゴールにシュートして遊ぶ場合、何度シュートしても良いでしょう?一回一回合図もない。ですから、「フリーオペラント」ということになります。遊びは基本的にフリーオペラントになることが多いです。実際にはこの中間というか両方の属性を含んでいる(ハイブリット)というのがあります。パズルをやる場合等です。「ピースをいくつもはめられる」(一つ一つの行動の間に、待ち時間はなく何度もできる)という点では、フリーオペラントなのですが、パズルの一つ一つは、(バスケットのボールと違って)同じピースを何度も外してはめてするわけではなく、一つのピースは一回しかいれない、こういう面では、1つ1つはディスクリートなわけです。
 親のコンサルをする際に私が良く使う例は、ディスクリートが受験のような感じです。お勉強は必要ですよね。ただ、お勉強だけしていて大学に入ると、入った後で「じゃあ自分は何をしたいのか?」迷ってしまいます。「自分の本当にしたいこと」は誰かに与えられた課題をこなす(ディスクリート)ではなくて、フリーオペラントだったりハイブリットだったりするわけです。フリーオペラントで一番わかりやすいのが、お笑い芸人の漫才などですね。決められた時間内に、何回面白いことを言ってお客を笑わせても良い。お客が「これして」ということに答えるのではなく、自分から面白い話をどんどんして良い場面です。もちろん強化子はお客の笑い。最近の番組では漫才形式ではなく、ゲストのトークや企画を紹介して、それに対して面白いコメントをするのが芸人の仕事になっているので、これはフリーオペラントではなくて、「ハイブリット」になりますね。旅館の女将さんなんかも「ハイブリット」系です。お客の様子をみながら、さっとお茶をだしたり、近所の良い観光場所を紹介したり、相手に合わせるような会話をしたり、色んな行動をしてお客を快適にさせるわけです。お客の笑顔が強化子になります。
 ということは、人生はこのディスクリートとフリーオペラント、その混合(ハイブリット)からできているので、両方の教育が必要であるということです。ディスクリートトライアルだけでは、人生に必要なことは教えられない、フリーオペラントだけでも教えられないということです。PRTの教科書なんかを読むと、ディスクリートに対抗するような感じで書かれていますが、これは間違いだと思います。対抗するのではなく、両方使うことが望ましいということです。人間やっぱり人から認められるのが嬉しいんですよ・・・(幸せの追求のような話になってきましたね)。自閉症の子どもに「どうやって人から承認をえられるのか」「人を喜ばせるのか」ということを教えるとすれば、指示に従うことを教えることも大切ですし(ディスクリート)、相手を観察しながら相手に合わせたことをすること(ハイブリット)を教えることも大切ですし、自分から面白いことをして相手を笑わせること(フリーオペラント)を教えることも大切です。ちなみに自分から面白いことをして自分で適切な遊びをするということ(フリーオペラント)も大切ですよね。「パズルやりなさい」って言われてやるものではなく、自分からやりたいこと(しかも他から見てあまり変じゃない、迷惑をかけないもの)を教えて行くのも大切です。

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