Joint Attention: シグナルが強化子となる

 私の住んでいる名古屋の北区から出てちょっと車で行ったところになんですが、安くて新鮮なスーパーがあるんです。両親につれられて行ったのですが、値段が安いから「安物」を売っているかと思えば、客の数が多いので品物の回転が速いためか鮮度もかなり良い。良い商売してますね。ただ、客の数が多いんですよ。スーパーの大きさというか、中の通路の幅なんかは普通のスーパーかそれよりやや大きい程度なんですが、客が5倍いると考えてください。凄い人で満員電車状態。品物を見ていたら後ろからカートでおばさんに突っ込まれて、アキレス腱あたりにカートが強くあたって、「痛っ!」と声に出しました。しかし突っ込んで来たおばさん私の顔も見ずにいなくなりました。ええ?ぶつかられて声に出して痛がっても、視線すら合わせてもらえない?ありえないでしょ。周りを見わたしても皆自分の買い物の事に気を取られて、人がちょっとぶつかったぐらいでは見向きもしない。「い、いたい・・・。」ちょっとショックで私はその場で呆然と立ちすくんでしまいました。
 ちょっと変わった事があった時って、何となく周りを見渡して他の人の承諾を探しませんか?そう言えば何十年も前の学生時代東京で電車に乗っていたら、隣の人(男性)が近くによって隣に座ったんです。隣じゃなくても場所があるのに。何故かと思ったら、突然耳をなめられたんです。は?と思いません?ちょっと起こった事が理解できなくて、耳を触ったら、ぬれていたんです。おえ。食事中だったらごめんなさい。でも、その人を見たら、何事も無かったように普通に前向いて、こちらの方も見ていない。今のは本当に起こったのだろうか?こういう突拍子もないことが起こった時も、周りに承諾を求めましたね。「皆見てた?今、この人、私の耳なめた?それとも何かの拍子に倒れて口がぶつかっただけ(それでよだれも垂れた・・・)?」と口に出しては言わなかったけれど、他の人も驚いて見ていないかを確認しました。でも、皆見ていなかったのか、しれーっとしてました。何となく状況が飲み込めなくて、電車を降りましたね。
 視線合わせといえば、自閉症は一番できませんよね。視線を合わせる事自体が強化子になっていないから、その大事さが理解出来ない。こういうのって、Joint Attentionって英語では言われるんですけど、上の例をそのまま使えば、私がなめた人の方と傍観者の方に視線を行ったり来たりさせることです。子どもの例を使えば、子どもが何か好きな物を見つけた時に、お母さんとその物へ視線を行ったり来たりさせることです。人の目を見る。人の視線を追う。これは一番自閉症の子供が苦手であり、さらに教えるのも本当に難しいことの一つです。
 従来のABAでは、これをスキルとして普通に教えようとしたのです。例えば、子供が欲しい物を見つけた時に、親と視線を合わさせてからその物を与えます。新しい物を置いておいて、その子が親の視線を見ることができれば、その物を与えて強化する。しかし最近の研究者の中では、その相手から見てもらえることやお母さんのうなずきなど(社会的なこと)が強化子になっていなければならないと指摘しています。行動ができるか、できないかよりも、したいか、したくないか(行動の機能)が重要なんです。私だって視線を追って時折承諾をもらえることがあるから視線を追っているのでしょう。私にとって周りからの承諾は強化子であり、それを探すために視線を追うわけです。
 強化子でないものを強化子にする方法として、この間からペアリングについては書きました。研究者のイサケセンとホルツさんは、ペアリングではないことを紹介しています。親の笑顔やうなずいていることがシグナルとなって、自分の欲しい物が得られる。親がうなずいていない、得がいでない時は、自分の欲しい物は得られないという状況にします。まあ、信号みたいなものですかね。交差点に入ると、信号を探すでしょ?交差点という状況で信号が見たいのは、青信号なら安全に渡れるし赤信号なら危険だからです。子どもの例では、何か知らない物、新しい物がある状況で、お母さんの笑顔が安全のシグナルになりお母さんも怖がっていれば危険のシグナルになるのです。だから子どもは新しい、知らない物を見つけた状況では、お母さんの顔を見る。欲しい物があった時も、お母さんの顔を見て笑顔ならもらって良い、そうでないなら取ってはダメというトレーニングをすることで、適切な場面で視線を追うことを教えられる(お母さんの笑顔が強化子になる)。「あれ取って来て」と指示しておいて(あれを指定しない)、お母さんの顔を見てその「あれ」をみつける練習をさせることもトレーニングとして紹介されています。ただこれだと、何か自分の好きな事を見つけた時に、「お母さんにも見てもらいたい。」というトレーニングになっているのかな?良い方向に進んでいるのは間違いないと思うけれど、私もイマイチ最後まですっきりしないんです。
 これはねえ、理論や学説研究などもまだ確立していなところ。はっきり言ってABAの最先端でもまだまだ研究がこれから必要な分野だと思います。研究がどんどん進んで、色んな方法が試されて、簡単に読んだ人が真似できるマニュアルができるようになるといいですね。私もまだ勉強中ですので、一番良い方法等は紹介できません。ちなみに研究論文を読んでみたいという強者の方は、出典は以下の通りです(両方ともオンラインでただで手に入ります)。下記のように慶応大学の山本淳一先生も研究されてるんですけど、私の読んだ論文は英語で書かれていましたので悪しからず。日本語で山本先生Joint Attentionについて書かれた本出されているかな?どなたか知ってたら教えて下さい。

Isaksen J. Holth, P. (2009). An Operant Approach to Teaching Joint Attention Skills to Children with Autism. Behavioral Interventions, 24, 215-236.

Naoi, N., Tsuchiya, R., Yamamoto, J., & Nakamura, K. (2008). Functional training for initiating joint attention in children with Autism. Research in Developmental Disabilities, 29, 595-609.

コメント

  1.  お久しぶりです。

     山本先生の研究ではどちらかというとヒントをもらうためのアイコンタクトになっていますよね。だからこの課題以外で視線合わせをするようになるかというとうーんという感じですね。これをするとDTTでも常に大人の見ている方の選択肢を選ぶようになる気がします(笑)

     承認を求める場合や困った時に助けを求めるアイコンタクト(これでいいの?というアイコンタクト)と感情の共有(どや顔で何かを自慢したり、面白いことを見て相手の顔を見ること)だと、前者はまだ形成可能ですが、後者はほんとに難しいと感じます。アイコンタクトに物の強化子を使ってもしょうがないし…

     またよい方法があれば教えて下さい。

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