教師の体罰その2

 ここ一週間程度で学校における教師の体罰、柔道等のスポーツにおける体罰が新聞やニュースに連日のように取り上げられ、大きな話題になっています。体罰については皆様も色んな意見があると思います。私もこれまでにもブログの投稿でコメントしてきましたが(「罰」「教師の体罰、指示に従う事」)、せっかくの機会なのでさらに押し進めて行きたいと思います。行動を科学的に考える専門家の立場から体罰の効果について、それから体罰の背景となった日本の文化、価値観について、外国暮らしの長かった者の視点からコメントさせて頂きます。
 まず行動の専門家の立場から、なるべく専門用語を使わないで話します。ここでは、「体罰を使う事が良いか、悪いか」といった価値観ではなく、「体罰を使うと行動の変化に効果があるか、ないか」ということから始めます。行動の科学という視点から罰の使用が研究され、その効果や副作用なども色々分かっています。罰を本当に簡単に説明すると(科学的には正確な説明でないのですが)、行動の後に何か嫌な事があって、その行動が起こりづらくなる事を言います。罰で行動の頻度を下げることは可能です。しかし、「罰」の投稿で例を挙げて説明しましたが、受けた側に対して副作用を起こす可能性がある使いづらい手法なのです。副作用としては以下の通りです。
  1. 恐怖反応(怖くなっちゃったり)や八つ当たりなどを起こす
  2. 罰を受けたその場面や、罰を与えた人を避けようとしてしまう
  3. 罰を出す人がいない時に、逆にその行動が増える (スピード違反などはカメラのある所だけスピードを落としますよね)
  4. 罰を使うという行動の見本を見せる(真似させてしまう)
  5. 代わりに何をしたら良いのかは教えられない
専門家がうまく使った場合にもこれだけ副作用があるのですから、専門家は安易に罰は使いません。ですから専門家は、罰を使って行動を減らすのではなく、代わりに副作用のない「強化」を使って望ましい行動を増やします。「強化」を簡単に言えば、正しい行動があった時に褒めたりして将来もっと起こるようにするのです。
 ちなみに、上記の副作用は、罰が上手く使えた場合(減らしたい行動が減った時)にも起こりますが、下手に使った場合(行動が減らない時)にも起こります。私の専門家としての経験から言うと、上手く使っているつもりで実は上手く使えていない場合が多いのです。どう失敗するかというと、簡単に言えば使う時のタイミングがずれているために、減らそうとした行動が減らないということです。そうなると、減らしたい行動が減っていないのに加えて、副作用はそのままあるので、まさに踏んだり蹴ったりです。
 もう一つちなみに話しておきます。特例中の特例ですが、アメリカで罰を使って、しかもヘルメットから流れる電気ショックを使って問題行動を減らす所があります。意外でしょう?これは自傷行動など(腕を噛む、頭を叩くなど)で早急に行動を減らさないと本人に体の危険があり、これまでに他の方法を使っても効果がなく、専門家に監督・統制された教育環境で行う、などといった特別な条件のみに限ってですが罰の使用が法的に認められています。特例ですが、罰を使うこともあるんです。
 以上の事からお分かりのように、「効果」と言う事だけを考えても(価値観としての良いか、悪いかは別としても)、行動の専門家でない一般の教員やスポーツのコーチが自分の経験だけで体罰を使った場合、意味のある効果を得る事はまずない、副作用によって逆効果もよくある、と考えるのが専門家としての私の立場です。
 ちょっと長くなってきたので、体罰を使う善し悪し(価値観)について次の投稿をしたいと思います。

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